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プログラミング・飛行機・その他

小説・8人の冒険手記(5)

ここまでのオクトパストラベラー

フレイムグレースにある聖火教会の神官オフィーリアは病に倒れた大司教の父を持つ親友リアナに代わって式年奉火の儀式を世界各地で行うための旅に出る。

オフィーリアが途中立ち寄ったアトラスダムの王立学院に仕える学者サイラスは、図書館での書籍盗難事件の犯人を突き止めるも、王女との男女関係を疑われ、それをきっかけに失われた本を探す旅に出る。

サイラスという仲間を得たオフィーリアは、旅を続け、とある小さな港町リプルタイドで駆け出しの商人トレサに出会う。まだ幼さの残る少女でありながらセンスのいい目利きの力を持つトレサは実家の店で売るために仕入れた商品を海賊たちに奪われてしまい、取り返す戦いにオフィーリアとサイラスの手助けを得る。

かつての大海賊レオン・バストラルに気に入られたトレサは彼の船で名もない旅人の書いた手記を見つけ、レオンにもらう。その手記に惹かれたトレサはオフィーリアとサイラスと共にまだ見ぬ世界へ旅立つ。

仲間が3人になったオフィーリア一行は、山岳地帯にあるコブルストンという村でひっそりと暮らす剣士オルベリクに出会う。村を山賊に襲われ、撃退したオルベリクだったが、別働隊の襲撃により、オルベリクに懐いていたフィリップ少年が誘拐されてしまう。

村長やフィリップの母親に助けを求められ、オルベリクは一人で山賊の根城へ向かうつもりだったが、オフィーリア・サイラス・トレサの3人は少年の救出に同行することをオルベリクに申し出た。

第5話「親友の影」

出会い

「・・・というわけで、俺はそのフィリップを助けに山賊たちの根城へ行かねばならん」

オルベリクは、ちょうど村にやって来たオフィーリアたちに自分の過去や村に来てからのこれまでのことを話して聞かせた。本当はすぐにでも山賊たちの元へ向かいフィリップを助けなければならないのに、不思議と目の前の旅の一行には話さなければならないような衝動に駆られた。

「それでは私たちもオルベリク様に同行させていただきます。その子が危険な状態にある状況で、私たちが呑気に村で過ごすわけにもいきませんわ」

オルベリクは目の前にいる美女を見た。まだ若いが神官をしているという。その隣にはオルベリクと同年代と見られる学者風情の男とまだ年端のいかぬ少女が一緒だ。彼らの関係がどのようなものなのか、オルベリクは真っ先に疑問に思った。

「聞きたいことは山のようにあるが、今は急がねばならん。見たところ腕も立つようだ。俺は一人でも山賊の元に行くつもりだが、仲間がいれば作戦が成功する確率はより高まる。知り合ったばかりで頼むのも不躾だがフィリップの救助に手を貸して欲しい」

「私たちは最初からそのつもりだ」

学者の男が言った。

「あたしもそのつもり。オフィーリアとサイラスには海賊退治に協力してもらったから、今度はあたしも山賊退治に手を貸すよ」

トレサと名乗った商人の少女が元気よく言った。オルベリクがかつて戦った戦いには屈強な兵士が味方や部下にいたが、今は頼りなさげな学者と若い女性たちだ。だが不思議と信頼できる気がしたオルベリクは、迷わずに彼らに助力を請い、4人で山賊の根城へ向かった。

少年と山賊

「ぎゃははははっ!そのバーグさんとやらは強えのか?」

暗い山の奥深くにある洞窟の中で、捕らえられたフィリップ少年とガラの悪い山賊たちと、その親分と思われる大柄の男が対峙していた。

「バーグさんならお前たちなんてすぐにやっつけてくれるんだからな!」

ヒーローに憧れる少年の戯言だと思ったのか、山賊の子分たちは少年の粋がった様子に何度もバカにしたような下卑た笑い声をあげた。

だが、ガストン親分と呼ばれた大柄の男は少年を馬鹿にしていた子分たちを一喝するとフィリップの気概を気に入った様子で声をかけて来た。

「ガキ、いっそうのこと仲間にでもならねぇか?お前のクソ度胸、こっち向きだぜ」

山賊の仲間になるつもりなどさらさらないフィリップは、その申し出を威勢良く断った。その姿も気に入った様子のガストンだったが、奥から迫る気配にただならぬものを感じ、笑顔が消え獲物を狙う狩人の如く鋭い視線を奥からくるものたちに向けた。

「・・・すまん。待たせたな」

オルベリクは内心焦ってはいたが、フィリップの無事な姿を見て安堵したのか落ち着いて山賊の前に現れた。フィリップは待ち望んでいたバーグさんが来てくれたことに喜びを隠せず、その後ろから現れた「バーグさんに比べたら全然弱そうな男と綺麗な女性と可愛いお姉さん」たちに気づいたのは少し後からだった。

親友の影

突如、ガストンの剣が煌めき、オルベリクに襲いかかった。オルベリクは難なく剣を退けたが、剣を構えるガストンを見て驚愕した。

「これか?ある人にもらった、俺の愛剣よ」

ニヤニヤ笑いながらガストンはオルベリクの後ろにいる美女と少女に目をやる。あれは上玉だ。こんなガキより高く売れるに違いない。値は下がるが、少し可愛がってやってから売り飛ばすのも悪くない。飛んで火にいるなんとやら、と下品な妄想に浸るガストンはオルベリクの言葉に少しだけ驚いた。

「・・・エアハルトか?」

ガストンから笑みが消えた。

「エアハルトというのは、君の話に出て来た男の名だね?」

後ろからサイラスの声が聞こえる。オルベリクは振り返らずに無言で頷く。オフィーリアも表情を固くしてキッとした鋭い目つきでガストンを見つめていた。

「それってあのオルベリクさんを裏ぎっ・・・モガモガ・・・」

若干空気の読めてないトレサの発言を、オフィーリアが後ろから羽交い締めにしつつ口をふさぐ。敵の目の前でオルベリクの過去を洗いざらい明かすのは危険だった。

「どこでエアハルトと会ったか、教えてもらうぞ!山賊!」

「目の色が変わった!火がついたって感じだな!知りたきゃ力づくで来るんだな!」

そう言いながら二人は互いの剣を相手に向けて振り下ろした。ガストンの剣が振り下ろされたのを合図と受け取ったのか、子分の山賊たちも一斉にオルベリクに襲いかかった。

「ぐはぁ!」

山賊たちが同時に何人も地面に倒れた。オフィーリアの光の魔法とサイラスの炎の魔法が山賊たちに襲いかかり、不意を突かれたところにトレサの弓から放たれた幾本もの矢が山賊たちに降り注いだのだ。

見事な連携プレイをガストンとの戦いの刹那に見て取ったオルベリクは、仲間の3人が見た目とは裏腹にかなりの戦闘を経験していることを知り、自分は目の前のガストンのみを相手にすればいいことを悟った。

ガストンの攻撃は力強く、そして激しかった。親友エアハルトから剣をもらっただけではなく、剣技そのものの教えを受けたと言っていた。山賊の頭などやっているが、腕が立ちエアハルトが気に入ったのだろう。エアハルトの大切にしていた剣を授けるくらいである。剣技に関してはエアハルトに認められたのだ。

ガストンの繰り出す攻撃に、かつての親友の姿を垣間見たオルベリクであったが、勝てない相手ではなかった。無論、無傷では済まなかったが、手下の山賊たちが残らず地面に倒れこんだのが見えたあたりから、受けた傷が優しい光に包まれて回復するのを感じていた。そして、ガストンの攻撃が繰り出されるタイミングでサイラスやトレサの攻撃が加わり、ガストンの隙をついた。

「ちぃっ!多勢に無勢かっ!」

手下の不甲斐なさに悪態をつくガストンだったが、戦いを諦める気はなかった。仲間の援護を受け、さらに目に宿った炎がより苛烈に燃え始めたオルベリクは、容赦ない剣を叩きつけていた。

かつての親友の剣が今の持ち主の手から派手な音を立てて離れた。オルベリクの一閃がガストンの手からエアハルトの剣を弾いたのだ。

エアハルトの剣はそのまま宙を舞い、回転しながら落下して地面に突き刺さった。ガストンから離れた位置である。素手になったガストンをオルベリクの剣が捉える。少しでも動けばオルベリクの剣で首と胴体が永遠に別行動をする羽目になりそうだった。

「ははは・・・参った。俺の負けだぜ」

ガストンは潔く負けを認めた。その場にどかっと座って胡座をかく。どこか嬉しそうな雰囲気を漂わせていた。

山賊稼業で町や村を襲い、逃げ惑う民を襲う戦いではなく、かつての傭兵団にいた頃の強いものたちとの戦いを思い出していた。エアハルトと仲が良かったのなら彼と同程度かそれ以上に強いはずだった。今の自分に勝てる相手ではなさそうだ、と素直に負けを受け入れることができた。

「さあ話してもらうぞ。エアハルトとどこで知り合った?」

ガストンは、とある傭兵団にいた時に知り合って世話になった間柄だということ、その傭兵団も解散してしまった今、自分自身もエアハルトの行方については知らないことを正直に語った。

嘘を言っているようには見えないとオルベリクは感じた。だが、オルベリクの後ろで若き神官が確固たる意志で山賊の頭を見つめていた。

美しき神官の裁き

ガストンは自分のことを頭の悪い人間だと思うと言い切り、山賊たちの頭になるしかなく、頭が悪いので悪いことしか思いつかなかった、と語った。

「まだ何か隠していることがありませんか?」

オフィーリアが前に進み出て、ガストンに言った。その場にいた全員が驚きの顔で美しい神官の姿を見た。

「へっ懺悔でもして悔い改めれば救われるっていうのか?」

「聖なる火は嘘をつく人間や隠し事をする人間を救いはしません」

「ふん。神官みたいなことを言う姉ちゃんだぜ」

「私は神官です。さあ、隠し事はせず、この聖火の前でオルベリク様に知っていることを全てお話しなさい」

美しい神官はガストンの目の前に聖火の種火を掲げた。彼女の言葉は優しかったが、その意思は固く、山賊の親分といえど逆らえない強さがあった。

ガストンはオフィーリアから恥ずかしそうに目を逸らして、観念したかのように下を向きながら言った。

「知っていそうなヤツに心当たりがあるってだけよ。グスタフって言ってな、黒騎士とかスカした名前で呼ばれている。今じゃヴィクターホロウの町にいるんじゃないか。俺が知ってるのは正真正銘、これだけだ。これで俺も救われるかね、姉ちゃん」

「それは今後のあなた次第でしょう」

オフィーリアはオルベリクを見た。オルベリクは抵抗さえしなければ命を取ることはしない、と明言して山賊たちを村人たちへ引き渡した。

フィリップも無事に母親の元へ戻り、村人たちは安心したのと同時に、オルベリクに感謝した。オフィーリアたちも村に戻り、村人や村長たちと過ごした。

新たなる仲間

村中で喜びが湧き上がっていたが、立役者たるオルベリクは浮かない表情で自分の家に戻ってしまった。オフィーリアたちは宿屋に泊まることにしたものの、夕食とひと時の休息を求めて酒場へ繰り出した。

「やはり彼は相当悩んでいるようですね」

サイラスは少し強めの酒を飲みながらうら若き乙女たちを目の前に語った。酒が入ると教師をしていた時の癖ですぐに他人に事細かに持論を展開してしまうのは悪い癖だ、と自覚はしていた。

オフィーリアは神官という建前からか酒を飲まず、バーテンダーが気を利かせて出してくれた果物のジュースを未成年のトレサとともに嗜んでいた。

「おそらく彼はかつての親友であったエアハルト殿の裏切り行為についてずっと真意を知りたいと思って来たのでしょう。しかし、親友の手がかりは何もつかめず、この村で暮らして来た。そこに今回の事件です。あの山賊のボスではありませんが、確かにエアハルト殿の剣であることを知った時の彼は目の色が変わり、かつての騎士の頃の輝きを取り戻したかのようでしたね」

オフィーリアは静かに頷く。トレサは難しい話はあまりわからない、と言った風にそっぽを向いたままジュースを飲んでいた。

「いずれにしても、明日の朝には我々には4人目の仲間ができていると思いますよ」

サイラスは酒のおかげか、同性の仲間が増える喜びか、いつになく上機嫌だ、とオフィーリアは感じた。そのまま3人は宿屋へ戻り、オフィーリアとトレサ、サイラスと2部屋に分かれて夜を過ごした。

翌朝、3人が宿屋を出ると、宿屋の前には旅支度を整えたオルベリクが待っていた。

「俺も仲間に加えてもらいたい」

サイラスは自分の言った通りになったと満足げに頷き、オフィーリアとトレサは満面の笑みで4人目の仲間を迎えた。村長やフィリップの母親が旅立ちを見送ってくれたが、フィリップ少年の姿はそこにはなかった。

4人が出発しようとした時、不意にオルベリクに襲いかかる一閃が煌めいた。だが、オルベリクは慌てることなくその攻撃を自分の剣で受け止めた。攻撃を仕掛けて来たのはフィリップだった。

「こら!恩を仇で返す気!」

トレサがフィリップに詰め寄ると、オルベリクは嬉しそうな表情でフィリップを見つめた。

「いい一撃だった。強くなったな」

フィリップはオルベリクがこの村に帰ってくるまで、自分が村や母親を守ると誓い、オルベリクに負けない強い男になることを彼に誓った。

オルベリクもフィリップの決意に敬意を評して自分ももっと強くなって必ず村に帰ってくることを約束して、仲間とともに村を出発した。

「優しい子でしたね」

オフィーリアは村を出て山道の途中で隣を歩くオルベリクに言った。オルベリクは自慢げに頷くと、我が子のことを語るかのように自信を持って言った。

「次会うときは負けるかもしれんな」

優しく微笑むオフィーリアの後ろでトレサがサイラスに言った。

「ああいうのを親バカって言うのよね。フィリップくんのお母さんと結構いい感じだったんだからお父さんになってあげればいいのに」

無邪気なトレサの様子に、サイラスは悟ったかのように諭した。

「男女の仲はトレサくんの考えるほど単純ではありませんよ。その世の中で最も難しいものかもしれません」

「ま、オルベリクさんに勝てたら、あたしの手記に少しくらいは登場させてあげるからね!」

旅を始めた時に比べて賑やかになった。そうオフィーリアは感じた。だが、まだ仲間は増えそうだった。そんな予感がオフィーリアの中にはあった。

山道が終わると、目の前には広大な砂漠が広がっていた。過酷な旅になりそうだったが、この先に新しい仲間の存在を感じつつ、4人は次なる目的地へ向けて歩き続けた。

(第5話・完)