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プログラミング・飛行機・その他

小説・8人の冒険手記(7)

ここまでのオクトパストラベラー

tomohiko37-i.hatenablog.jp

第7話「砂漠の踊子(後編)」

仲間

「神官に学者に商人に剣士?随分と無秩序にパーティを組んだものね」

地下道の入り口で知り合ったばかりのプリムロゼと4人組は取り急ぎ自己紹介や簡単な状況の説明を終えた。知り合ったばかりだというのに、プリムロゼの口調は遠慮がない。

「神官である私が旅の途中で学者のサイラス様に出会い、商人のトレサと知り合い、剣士のオルベリク様と共に戦うに至ったのです」

オフィーリアが代表してこれまでの経緯を掻い摘んで話す。プリムロゼが見たところ、それぞれがそれぞれの旅の目的があるようだった。それにしても何の関係もないもの同士がよくもまあ意気投合して一緒に旅を続けているものだと、プリムロゼは興味を持った。

「だから、ここに踊子が加わっても全然おかしくないってわけ」

トレサが持ち前の元気さを全開にして意見を述べる。空気が読めていないことが多いが、様々な事情を抱える者たちが集まって旅をするのに、彼女の存在はかなり大きいことを他の3人はよくわかっていた。

「ま、メンツはどうあれ、とにかく私は今急ぐのよ。話した通り、お父様の仇の男たちの一人をようやく見つけたの。この地下道を通っていったから追いかけないと」

「ふむ。だがプリムロゼ殿、敵の追撃に焦りは禁物だぞ。話を聞いた限りではただの素人でもなさそうだ。地下道の中に罠などがある可能性もあるからな。俺を含め、ここにいる者たちはそれなりに似たような状況を経験している。俺たちと共に進んだ方があなたの目的も達しやすいと思う」

オルベリクが冷静にプリムロゼに言った。確かにプリムロゼは焦っていたし、持ち前の冷静さを失っているのは当人も自覚していた。常に冷静沈着に行動しているつもりの自分が、いざとなるとこれだけ周りが見えなくなるものかと、情けない気持ちもあったのだ。

「わかったわ。遠慮なくあなたたちに協力をお願いすることにします。地下道の先はこの町を裏側から外に出れるはずよ。私が追っているカラスの入れ墨の男は、そこからこの町に来ているはず」

「よし。ではまず町の武器屋で装備を整えるとしようか」

サイラスの提案にプリムロゼを除く3人が頷く。プリムロゼは何を呑気なこと言っているのかとあっけにとられている。

「あのね、私の話を聞いてるの?急いで追わないといけないって・・・」

「プリムロゼさん、オルベリク様の言ったことを思い出してください。そのカラスの入れ墨をした男たちを追いかけて見つけても何の準備も無かったらただ物陰から見ているだけになってしまいますわ」

「その通りだ。プリムロゼくん。私の推理ではこの手の地下道は少し入り組んで入るが、基本的に一本道だ。つまり、こちらから入れば出るところは同じ。多少遅れても目的の男が通った場所を辿れるだろう。それなら何か手がかりが残っている可能性も高い」

というサイラスの言葉に間髪を容れずトレサが口を挟む。

「そそ。サイラスは頭はいいから言う通りにしておけば平気。男を見つけたらオルベリクさんがガツンと倒してくれるから大船に乗った気でいてよ」

プリムロゼは目の前の4人たちを顔を赤らめながら気恥ずかしそうに見つめていた。普段あまり自分のことを気にかけてくれる人がいなかったので、こんな風に一緒に考えてくれることに慣れていない。ユースファもきっとこの4人と同じことがしたかったのではないか。

準備

プリムロゼは素直に頷くと、4人を町の中心部にある武器屋へ案内した。町のことならプリムロゼが詳しい。サンシェイドの町は広くはないが少し入り組んで分かりづらい。

自分が使うナイフまで新しいものを新調してもらい、プリムロゼは柄にもなく恐縮した。

「遠慮しなくていいって。そんなのプリムロゼっぽくないよ!」

トレサの元気な声が飛ぶ。

「あなたは少し遠慮という気持ちを学ぶべきです」

すかさずオフィーリアがトレサをたしなめる。奔放な妹と頭の固い姉、という構図のようだ。

「あはは。面白いわね、貴方達」

心の底から可笑しくて笑ったのは随分久しぶりなきがする。客達のために作り笑いをするのは日常的に行なっていたが、自分もまだこんなに笑えるのだと気がついた。

地下道

暗い地下道の中をプリムロゼ、オフィーリア、トレサ、オルベリクが歩いていた。先頭を行くオフィーリアがカンテラを持って暗い道に灯を照らす。

あまり大人数で行動するのも敵の術中にハマる可能性もある、という経験豊富なオルベリクの意見により4人で行動して一人は後方支援として町に残ることにした。

残るのはサイラスとなった。一番最初から旅をしているオフィーリアがリーダー的な存在になりつつあるが、サイラスは学者というだけあって冷静に物事を分析し、私情を挟まずに考えられる人物だった。あちこち回って情報を集めることにも長けているし、後方で司令塔として指示を出してもらう役目ができるのはサイラスしかいないとオフィーリアは考えた。

サイラスもその意見に賛同し、他に何か町で得られる情報などないか調べてみると言い残して、オルベリクと二言三言話をしてから町の方へ消えていった。

「ねぇ、サイラスはなんて言っていたの?」

トレサがオルベリクに聞く。自分の旅を手記にまとめるという大きな目的があるトレサは常に古びた手帳とペンを持って何かあるたびに記録している。

「いや、大したことではない。女性陣の中に俺が一人だけ男として残るからな。少しからかいたくなったのだろう」

トレサは呆れたように「男ってバカね」と吐き捨てていたが、プリムロゼは何か大事な指示をオルベリクにしていったのではないかと感じた。この件の当事者である自分に言わなかったのはオルベリクが常に冷静沈着に行動できるからか・・・。オフィーリアもオルベリクの言葉に特には反応しなかったが、同じようなことを思ったみたいだった。

戦闘

地下道を進む中で何度か魔物達との戦闘になった。プリムロゼも全くの素人ではないものの、流石に旅を続けている3人の闘いぶりには驚いた。

昔、騎士だったというオルベリクは当然としても大人しく頭の固い美しい神官が戦闘では率先して敵に攻撃を繰り出したり、絶妙なタイミングで仲間を回復したりする姿には相当な修羅場をくぐって来たのだと感じた。

そして一番驚いたのはトレサだった。普段は自由奔放に遠慮なく言いたいことを言っている子供だと思っていたが、槍と弓を使い分けるだけでなく、商人らしく小銭を稼いだりサポート役としても優秀だった。

「へへーん!どう?あたしのこと見直したんでしょ。『プライドの高いプリムロゼは認めたくなかったが、商人トレサの眼を見張る闘いぶりに自分のこれまでの過ちを認めざるを得なかった』って手記に書いておくね!」

「ちょっと!『これまでの過ち』って何よ!せっかく見直したと思ったのに台無しだわ!」

地下道に入った当初は互いに緊張感のある間柄だったが、少しずつ打ち解けてすぐに冗談を言い合える仲になっていた。

やがて、彼らの前に眩しい光が見えてきた。地下道の出口であるはずだった。あの出口の先にはプリムロゼが追い求める男がいるはずだ。自然とプリムロゼの歩みが早くなる。

対峙

急に明るいところから外に出て、プリムロゼは一瞬目が眩んだ。少しずつ目が慣れてきたところで視界が晴れてくる。

「どこへお出かけだ?仔猫ちゃん」

上から聞き覚えのある声が響いた。特に聞きたくもない下品な声だった。

「支配人・・・様」

『様』をつけたのはもう慣れと言っても良かった。地下道の出口は町の裏手にある崖の麓につながっていたようで、地上に出たところは眼前に急な崖が広がっていた。

その崖の上に数名の仮面で顔を覆った男たちと一緒に支配人が下卑た笑みを浮かべながらプリムロゼを見下ろしていた。その視線がプリムロゼの後ろに追いついて来た仲間たちに向けられた。「ふん」と鼻で笑って支配人は手下の男たちに合図すると、男たちは後ろに隠したモノをプリムロゼたちの目の前に晒した。

「ユースファ!」

プリムロゼを逃したことがバレたのだろうことは明白だった。支配人たちに捕まってしまい、先回りしてプリムロゼたちが出てくるところに連れてこられたのである。

支配人は迷うことなくユースファの胸にナイフを突き刺す。そしてそのまま崖の上からプリムロゼたちの前にユースファを投げ捨てた。

「ユースファ!!」

プリムロゼが駆け寄る。ナイフで胸を刺された上に崖の上から投げ捨てられたユースファは息も絶え絶えでプリムロゼを見つめた。

「・・・プリムロゼ、おっきい声、張れるんだ」

普段、誰とも関わりを持とうとしないプリムロゼに世話を焼いてくれたユースファは少し見直した様子でプリムロゼを見つめた。

「あたしたちって・・・友達・・・かな」

プリムロゼが最後の力を振り絞るかのように声を出す。そのままガクッと力が抜けたユースファにプリムロゼの声が届いたかはわからない。

「ええ、大切な・・・友達よ」

動かなくなったユースファを見つめるプリムロゼに支配人は無慈悲な声をかけた。

「終わったか?最後の演技はまあまあだったな。舞台でもそのくらいできりゃ可愛がってやったものを・・・」

プリムロゼは黙っていた。オルベリクは「下衆め」と呟き、オフィーリアとトレサは怒りで声を出すこともできず、ワナワナと体を震わせていた。

プリムロゼは落ち着いた様子で立ち上がり、支配人を見上げて高らかに宣言した。

「私がこの町で踊るのはここまで。今日限り、辞めさせてもらうわ」
「心変わりしたのは、あの男が来たからか?」
「ええ、そうよ。醜い豚さん」

今度は『支配人』から『醜い豚さん』に格下げになったヘルゲニシュが怒りに全身を震わせる番だった。

「この雌が!!誰のお陰で生きてこれたんだ!」
「自分の脚で踊ってきた。いつだってね。そして今日、仇の男が現れた」
「今なら、まだ許してやろう。すべては嘘だというなら。そしてその汚い口を閉じ、いつものように儂を満足させれば・・・すべては砂に流してやろう」

精一杯の虚勢を張り、まだ自分の方が偉いのだと言いたげなヘルゲニシュは、怒りを抑えつつ目の前で反抗する「仔猫」を逃すまいと必死だった。

「・・・『くそ食らえ』よ」

プリムロゼの遠慮のない一言がヘルゲニシュに最後通告をする。オフィーリアはプリムロゼのセリフが女性として下品なセリフだと思ったが、今回限りは見逃すことにした。

「儂を噛んだ猫は全て始末してきた!そこの!それのようにな!」

ユースファの遺体を指差しながら、ヘルゲニシュは全身に殺意を滾らせてプリムロゼを睨みつけた。その様子に手下の男たちも各々の武器を構える。

「プリムロゼ、お前はとっておきだったのに・・・もったいないよ、プリムロゼ・・・」

哀れんだような声でプリムロゼに死刑宣告をした気になるヘルゲニシュにプリムロゼは痛烈に言い返した。

「お世話になったわね!『支配人様』!!」

言い終わらないうちにプリムロゼは手にしたナイフを逆手に持って崖の上から飛び降りてきたヘルゲニシュとその手下たちに斬りかかった。それを合図にオフィーリアたちもプリムロゼに加勢する。

戦いに慣れたオフィーリアたちにヘルゲニシュは敵ではなかった。手下の男たちは鍛えられた兵隊のような戦いぶりだったが、地下道を進む中でオルベリクからナイフの効果的な使い方や戦闘における立ち回り方など教えてもらったのが役に立った。

(彼には後で一杯くらいお付き合いしないとねッ!)

そう考えながら向かってくる手下の男たちを切り捨てる余裕すらあった。手下の数は4人。こちらの仲間は4人。一人が一人を相手にすればすぐ終わるはずだったが、プリムロゼが一人斬り捨てた間にオルベリクが残りの3人を倒していた。オフィーリアとトレサはヘルゲニシュを牽制していた。

(オルベリクって一度客の噂話で聞いたことがある「ホルンブルグの剛剣の騎士」と言われたオルベリク・アイゼンバーグのこと?だとしたら彼が旅をする目的は・・・)

改めてオルベリクの存在を意識したプリムロゼは、残る支配人ヘルゲニシュに対峙した。

「プリムロゼ、たしかにお前は初めから他と違っていた。年端もいかぬお前の瞳には強い意志があった。・・・ひと目で、そそられたよ。最後にもう一度だけ・・・踊ってくれんか」

プリムロゼは黙ってヘルゲニシュの前で舞い始めた。それは強い意志の現れた美しい舞いだった。オフィーリアもトレサも、そしてオルベリクすらもその舞に目を奪われただけではなく、心まで奪われそうっだった。だが、彼ら3人はヘルゲニシュの怪しい視線の先にプリムロゼがあることに注意を払っていた。最初からヘルゲニシュという男は全く信用できないと思っていた。

最後に踊ってくれ、などとセンチメンタルなことをいうような覚悟を決めた人間だとは思っていない。どうせ隙を見て逃げるかプリムロゼを仕留めるか、そのタイミングを狙っているのだろう。そして、後者の方を狙っていることは明白だった。

プリムロゼが美しい舞いのクライマックスでヘルゲニシュに背を向けた瞬間、ヘルゲニシュの手に隠し持っていたナイフが煌めいた。歳をとった太っただけの男だと油断していたのかもしれない。オフィーリアもトレサもヘルゲニシュの想像以上に素早い動きに追いつくことはできなかった。

しかし、プリムロゼに刃が届くよりほんの僅かな一瞬に、プリムロゼの手に隠されていたナイフの一閃がヘルゲニシュを仕留める方が早かった。

「がはっ!はひっ・・・はひっ・・・」

ヘルゲニシュは砂地に大の字に倒れた。

「・・・最後に踊ったのは、あなただったわね」

そう言いながらヘルゲニシュの元へ近づき、しゃがみこんでヘルゲニシュの懐を弄る。

「この地図・・・左腕の男が渡していたものね。北の・・・スティルスノウという村か・・・いただいていくわ。さよなら、支配人様」

そう言い捨てて支配人とその手下の男たちが倒れているのを振り返りもせず、オフィーリアたちの元へ歩いてきた。

「ひゃー、プリムロゼの踊り、すごかったねぇ〜」

トレサがプリムロゼに駆け寄り、抱きつく。

「ちょっと・・・お代はあとでちゃんといただくわよ。私の舞は見物料が高いことで有名なんだから」

抱きつくトレサを楽しげに引き剥がしながら、プリムロゼは笑顔でオフィーリアたちに言う。

「うんうん。わかるわかる。オルベリクさんだって見とれててあの下衆な支配人が飛び出すのに反応できていなかったもんねぇ〜」

「・・・うむ。俺もまだ修行が足りん、ということだ」

トレサは満足そうにオルベリクの反応を楽しんでいたが、オフィーリアとプリムロゼは軽く微笑んだだけで何も言わなかった。オルベリクはプリムロゼがヘルゲニシュの動きが見えていたのがわかっていたのだろう、だからあえて動かなかったのである。

「踊子は後ろにも目があるようですね」

オフィーリアはプリムロゼにそっと言った。

「常に男の視線を感じていないと務まらない仕事なのよ。アンタにも教えてあげましょうか?男のあしらい方を」

「遠慮しておきます。・・・それより・・・彼女を」

オフィーリアは遠くに倒れていたユースファの方を見てプリムロゼに言う。ヘルゲニシュや手下の男たちと異なり、そのままにはしていけない。プレムロゼはオフィーリアたちの手を借りてユースファの遺体をサンシェイドの町の端に弔った。

「ユースファ、しばらくはお別れね。私はあの男を追うために町を出るわ。でも心配しないで。今度は頼もしい仲間ができたから。あの人たちを受け入れられたのはあなたのおかげかも知れないわね」

親友の眠る墓に別れを告げると、プレムロゼは仲間たちが待っている町の出口へ向かった。彼女は仲間たちとともにそれぞれの旅の目的を果たすために世界を駆け回ることにした。