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プログラミング・飛行機・その他

小説・8人の冒険手記(6)

ここまでのオクトパストラベラー

tomohiko37-i.hatenablog.jp

第6話「砂漠の踊子(前編)」

砂漠

「暑い〜もうダメ〜」

延々と続く灼熱の砂漠を4人の旅人たちが進んでいた。最初に根をあげたのは最年少のトレサだった。

「女にはキツイよ〜。ってなんでオフィーリアは涼しい顔してんのよ〜」

寒いところ出身のはずのオフィーリアが平気そうな顔で歩いているのを見て、トレサは恨めしそうにオフィーリアに絡みついた。

「神官は式年奉火の儀式のため世界を回る役目を負います。そのための修行として暑いところや寒いところでの生活も経験しています。修行に比べればここの砂漠はフロストランド地方出身の私にとっては心地よいくらいの暖かさです」

「はぁ〜?それ感覚が麻痺しちゃってるよぉ〜。普通は暑くて死にそうになるでしょう?オルベリクさんは鍛えてそうだけど、サイラスはキツイよね?ねっ?」

仲間を探そうとトレサは必死だったが、意外にサイラスも涼しい顔をしていた。

「私は学者なのでね。時には火山などにも行って学術調査をすることもあるし、砂漠でさまざまな生態系の調査をすることもある。このくらいで根をあげていては学者は務まらないのだよ」

トレサは自分だけ暑さに弱いことがわかると、シュンとして最後尾からノロノロ付いて行くだけになった。

「トレサ、これも冒険だ。冒険者が旅する場所は過酷な場所の方が多い。常に快適な環境だけを進むことができるわけではないぞ。商人ならば過酷なところにこそ、お宝を見出してみてはどうかな」

屈強なオルベリクがトレサが追いついてくるのを待って、そう声をかけた。オルベリクの言葉に少し元気が出たのか、トレサは急にペースを上げて4人の先頭に立って進み始めた。

「そうやってペースを早くしたり遅くしたり、話してばかりいるから疲れるのです。苦しい環境の時は黙って一定のペースで止まらずに進み続ける。それが一番疲れません」

無邪気な妹を諭すかのように、オフィーリアは年下のトレサを戒めた。トレサはせっかく元気が出てきたのに不満そうにほおを膨らました。

女性陣のやりとりに男たち二人は無言で視線を交わすとふっと微笑んだ。こんなやりとりができるうちはまだ大丈夫だろう。

4人が進む先にサンシェイドの町が見えてきた。

悪夢

「世の中には2つのことがある。知るべき事と知るべきでない事だ。ジェフリー・エゼルアート、あんたは後者に手を出した」

屋敷の一室で、フードに顔を隠した黒づくめの男3人に囲まれた父親の姿をプリムロゼは生涯忘れることはないだろう。詳しいことはわからないが、その男たちに拘束され、脅され、そして命を奪われてしまった。

その時の様子をプリムロゼは部屋の片隅に隠れて見ていた。男たちに見つからなかったのは奇跡と言っていいだろう。

「・・・私は信念に従ったまでだ」

それが尊敬する父親の最後の言葉だった。父親の命を奪った3人の男にはそれぞれ別の場所にカラスの入れ墨があった。それが目印になる。プリムロゼは物陰で何もできずに父親を見殺しにしてしまった自分の不甲斐なさを呪いつつ、その男たちのカラスの入れ墨を目に焼き付けていた。いつの日か、父親の仇をとってみせる。

「・・・余裕ね、プリムロゼ。本番の前に居眠り?」

プリムロゼはその声で我に返った。父が命を奪われる瞬間は何度も夢に見ている。またその時の夢を見ていたようだ。これから舞台で本番が始まるというのに、居眠りをしてしまっていたようだ。

自分はサンシェイドにある歓楽街で一番の売れっ子の踊子だった。他の踊子たちよりも遥かに容姿が綺麗だと自覚していたし、客である男たちの視線を奪ったら離させないほどの妖艶な踊り、そして話術、全て他の誰にも負けないように努力してきた賜物であった。

それなのにプリムロゼが売れていることを妬む踊子がほとんどだ。売れれば金もたくさん手に入るし、金持ちの男にうまく拾われれば贅沢な暮らしができる。女たちの嫉妬はある意味当然と言えた。

「女の敵は女、ってね」

プリムロゼは独り言をつぶやく。それが聞こえたのか、プリムロゼを睨む女たちの視線が嫉妬から殺意に変わるのを感じた。プリムロゼも気が強い女だったので、睨まれれば睨み返す。一触即発の事態になりかけた控え室の中に下卑た声が轟く。

「ぐずぐずするな!客たちが待ちくたびれているぞ!」

女だけの控え室に遠慮なく入ってきた男は支配人のヘルゲニシュ。踊子の誰からも好かれてはいなかったが、地位と権力、金と欲望の塊のような男で、踊子たちは誰も逆らうことはできなかった。

支配人の一番のお気に入りであるプリムロゼは、支配人の機嫌を損ねないように素直に支配人の言うことに従っていた。前座として踊るプリムロゼ以外の踊子たちを控え室から追い出すと、下品な顔に下品な欲望を溢れさせた表情でプリムロゼの綺麗な顔に自分の顔を近づけた。プリムロゼは顔を離して引っ叩きたい衝動にかられつつも、顔を赤らめ、視線を少し逸らして支配人を受け入れるそぶりを見せた。そのくらいのことはできるようになっていた。

「舞台が終わったらいつものように儂の部屋においで」

身の毛がよだつような声で言われ、全身に鳥肌が立つのがわかった。しかし、全ては父親の命を奪った男たちに父の仇を取るため。自分の身体がどれほど穢れようともプリムロゼはこの支配人が大きな手がかりを握っていると信じて言われるがままにしていた。

とても口に出して言えないようなことをいつも支配人の部屋で二人だけの時に命令され、プリムロゼは涙もプライドも捨てて必死に耐えてきた。

「はい、支配人様」

それがプリムロゼのOKのサインだった。もっともプリムロゼには拒否する権限はない。ただ、支配人が己の支配欲を満たすためだけにプリムロゼに自らの意思で自分の部屋に来ていることを証明したいだけなのだ。

(その程度で満足するならいくらでもしてやるわよ)

プリムロゼは自分の出番が回ってきたことを知らせにきた男についていき、舞台の上で華麗な舞を披露した。

迷い

「最高だぜ!プリムロゼ!」

「なぁ、今夜一緒にどうだい?」

プリムロゼの舞を見た男たちはその妖艶な姿に魅了され、口々にプリムロゼを称えた。プリムロゼは屈辱の日々を送ってはいたが、舞台で踊ることは好きだった。その瞬間だけは何もかも忘れ、頭を真っ白にして舞うことだけに専念できた。

しかし、今日は散々だった。

本番前に昔の夢を見たからか、仇の男たちへの憎しみや父が受けた屈辱などを思い出し、踊りに全く集中できなかった。こんなことは初めてだった。何かの予感のようなものを感じていたのかもしれない。

なんとか普段通り踊って客たちを魅了したプリムロゼだったが、控え室に戻ってから他の踊子たちの嫌がらせを受けた後、支配人に今日の踊りを咎められた。

下衆で下品な好きになれそうな部分が塵ほどにも見つけることのできない男だったが、踊りに関しての眼力だけは驚くべきものを持っていた。プリムロゼの今日の踊りに心がこもっていなかったことを唯一見抜いていた。

ネチネチ小言を言われた挙句、とびきりの上客を店に連れてくれば今日の気の抜けた踊りについては許してやる、などと言われてしまった。仕方なくプリムロゼは街へ繰り出す。

誘惑

(あら、あそこに良さそうな紳士がいるじゃない)

プリムロゼは街を一人で歩いていた紳士を見つけ「獲物」と認識した。長く踊子として男たちをあしらっていると、男たちの服装や身なり、持ち物などで身分や地位、性格などが垣間見えてくるようになった。

「ねぇ、そこの紳士な御方、よかったら私と一杯、お付き合いしてくださらない?」

意図的に男との距離を縮め、互いの体が触れるかどうかくらいの絶妙な間隔で話しかけた。男の視線がプリムロゼの顔から下へ舐め回すかのように下へ降りていくのがわかる。

(私の特技は「誘惑」ね)

プリムロゼは上目遣いで男を見つめ、少し潤んだ瞳で誘う。この誘惑に落ちなかった男はいない。プリムロゼが絶対の自信を持つ誘惑であった。

「ああああ〜その美しさには逆らえません・・・」

男はあっさりとプリムロゼの誘惑に落ちた。なんの苦労もなく「上客」を酒場へ連れて行った功績を認められ、プリムロゼは支配人から許しを得た。ひとまず安心して客たちに酌をして回っていると、客の中にカラスの入れ墨をしたフードで顔を隠す男を見つけた。

「っっっ!」

プリムロゼの全身を緊張が駆け抜けた。身体が熱くなるのがわかる。男と駆け引きをするときの高揚感や恍惚の感覚ではない。

怒りだ!

隠し持った愛用の護身用ナイフに手を伸ばす。ナイフを身につけていることを確認して、逃すまいと酒場を出ようとする男の後を追う。

「どこへ行く?」

男が酒場を出たところで、支配人に見つかってしまった。客の相手もせずに仕事をサボっていると思われたのだろう。

焦り

早く追わねば見失ってしまう。ずっと探していた手がかりが手の届くところにある。しかし、支配人から無慈悲な命令が下り、プリムロゼは客の相手を続けなければならなかった。

支配人が酒場を出て行った後、同じ踊子のユースファが声をかけてきた。

「珍しいね、あんたが焦った顔をしてる」

取り繕う暇もなくそわそわしているプリムロゼの姿を見かねて声をかけてきたのだろう。ユースファはプリムロゼを敵視する他の踊子たちと違って何かにつけて親切にしてくれていた。

「あたしがうまく誤魔化しておくから行って」

嬉しかった。しかし、そうすることはユースファも巻き込んでしまうことになる。支配人から目をつけられてしまったらどうなるか分かったものではない。

それでも頑なにプリムロゼの味方をしてくれるユースファに甘えて、プリムロゼは酒場を出た。狭い街である走り回って探せばすぐに目的の男は見つかるはずだった。

案の定、地下道への入り口でカラスの入れ墨の男を見つけた。驚いたのは一緒に支配人ヘルゲニシュがいたことだったが、物陰に隠れて二人の様子を見張っていると謎が解けてきた。

ヘルゲニシュは町で綺麗な女を踊子に育ててはカラスの男に引き渡していたのだ。当然、金銭のやり取りもあるはずだ。自分も飽きられたらこの男の元へ売り払われるのかもしれない。それはそれで男たちに近づく機会が訪れるわけだが、それはいつだかわからないし、仇を取る準備もできやしない。

今、追うしかない。

プリムロゼは支配人が去り、男が地下道に入って行くのを見届けると、その後を追うべく地下道へ向かった。

「あの、何かお困りなのではありませんか?」

不意に後ろから声をかけられた。振り返るとうら若き女と少女、ボサボサの髪で本を抱えた男と屈強だが頭の中まで筋肉でできているような大男がプリムロゼを物珍しそうに見ていた。

(上客じゃないわね。神官みたいな女なら私のライバルの踊子になれるかもしれないけど)

職業病だ、とプリムロゼは一人で笑った。どんな関係なのかわからないが、この4人組がお節介そうな感じは見た瞬間に感じた。

急いで追わねばならないが、ちょっとこの4人組と話をしてみたくなった。不思議な4人組だった。

(後編へ続く)